不整脈のなかで、患者数が多いもののひとつ「心房細動」。心房が痙攣したように細かく震え、十分に機能しなくなる病気です。実は、この心房細動は単に心臓の病気だけでなく、脳梗塞を引き起こすことがあるのをご存知ですか? 致死率10%以上、命は取り留めても身体に障害をもたらすことの多い心房細動に起因する脳梗塞とは、一体、どのようなものなのでしょうか。桑原院長が解説します。
目次
日本の患者数はおよそ200万人!? 「心房細動」とは?
「心房細動」とは、文字通り、心房内に流れる電気信号が乱れたことによって起きる不整脈の一種です。心房が痙攣したように細かく震え、血液を全身に送り出すことができなくなります。日本国内で行われた調査を考慮すると、2022年の段階で患者数は200万人を超すと推測されます。 (*1)
心房細動とは、どのような状態?
心臓は4つの部屋に分かれており、上の部屋は心房、下の部屋は心室と呼ばれています。心臓は心房と心室が連携を保ちながら、収縮と拡張を繰り返すことで、全身へ血液を効率よく送り出しています。
心臓の拍動を作るのは、右心房の上のあたりにある「洞結節」という組織。ここから、1分間に60~100回の電気刺激が、規則正しく送られています。しかし心房細動になると電気信号が無秩序に速くなり、正常時の心拍数が60~100なのに対して200近くになることもあります。そのため心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなってしまうのです。
自覚症状は動悸、息切れ、めまい
心房細動になると、一体、どのような自覚症状があるのでしょうか。まず、症状として挙げられるのが、 動悸、息切れ、めまいです。
心房細動になると心拍数が上昇し、心臓から血液を送り出す量が減少します。そのため、体を動かしたり階段を登ったりしたときに激しい息切れや強い動悸を感じます。
また、横たわっているだけでも肥大した心臓の重量に胸が圧迫され、息苦しさを感じることも増えてきます。
しかし、すべての人に自覚症状があるわけではなく、このような症状がまったくない人もいます。健康診断や人間ドックなどで心房細動を指摘され、初めて気づく人も少なくありません。
心房細動に由来する「頻尿」もある
意外なことに、心房細動になると排尿回数が増えることもあります。なぜかというと、心房細動発作を起こすと、ANPという心房性ナトリウム利尿ペプチドというホルモンが大量に分泌されるから。実は、このANPには利尿作用があるため、心房細動の発作中や発作後に、頻繁に排尿するようになるのです。
心房細動を起こしやすい人には、一定の特徴がある
心房細動の原因にはさまざまあります。なかでも「加齢」は大きな誘因となっており、実際、心房細動の患者は高齢者によく見られます。
発症の誘因は「加齢」「飲酒」「心疾患」
どのような人が心房細動になりやすいのかを調べた調査に、とても興味深いものがあります。Framingham研究(2)と久山町第2集団研究(3)と呼ばれており、アメリカのフラミンガムという町と、日本の福岡県久山町で全住民を登録し、まったく医療介入を行わずに心房細動の発症率を調べたところ、日米における特異的な差はなく、どちらの国でも心房細動を発症しやすかったのは「高齢の人」「飲酒の習慣がある人」「心疾患(弁膜症、心筋症、心筋梗塞、鬱血性心不全など)の既往症がある人」でした。
これらの要因を持つ人は、心房細動の発症率が高くなります。たとえば「飲酒」でいうと、下のイラストのように、ビール500ml、日本酒1合などをアルコール1単位」とし、毎日3単位以上摂取している人は、飲酒しない人に比べて、心房細動を3倍発症しやすいことがわかっています。(*4)
高血圧の人はそうでない人に比べて、心房細動の発症率は1.4倍
高血圧も心房細動を発症する大きな要因のひとつです。
1995年に行われた調査によると、高血圧のある人はない人に比べ、1.4倍、心房細動になりやすいことがわかっています(*5)これは、心疾患や飲酒歴など、心房細動を引き起こす他の危険因子を補正し、純粋に、高血圧だけのリスクを調べたものです。
1.4倍ときくと、「それほど高くない」という印象があるかもしれません。しかし、高血圧は脳梗塞や心筋梗塞とも密接な関係があるため、高血圧に気をつけることで、心筋梗塞などを介した心房細動も予防することができます。
睡眠時無呼吸症候群も心房細動の要因に
意外と見落としがちなのが、睡眠時無呼吸症候群も心房細動の要因になりうるということです。
睡眠時無呼吸症候群になると睡眠の質が落ちるので、日中に眠気や倦怠感に見舞われます。無呼吸により血液中の酸素濃度が低下するため、心臓は一生懸命全身に血液を送り、酸素を届けようとします。それにより心臓に負担がかかって心房細動を発症しやすくなるのです。
研究により、睡眠時無呼吸症候群の人はその他の人に比べ、心房細動を4倍発症しやすいことがわかっています。(*6)
また、甲状腺機能亢進症の人も心房細動のリスクが上昇します。
甲状腺ホルモンが異常に分泌されることにより代謝が亢進し、動悸、発汗、手の震え、やせなどの症状が出現します。約10~20%の人に心房細動を合併します。
本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。続きはコチラ>>
出典
*1Ohsawa M, et al. J Epidemiol. 2005; 15: 194
*2 Benjamin EJ, Levy D, Vaziri SM, et al. Independent risk factors for atrial fibrillation in a population-based cohort. The Framingham Heart Study. JAMA 1994; 271: 840-844.
*3 藤島正敏. 循環器学の進歩:高齢者の循環器疾患. 脳血管障害のリスクファクターとしての心疾患. 循環器医 1998; 6: 19-26
*4 Sano F, et al. Circ J. 2014; 78: 955-61
*5 The natural history of atrial fibrillation: incidence, risk factors, and prognosis in the Manitoba Follow-Up Study. Am J Med. 1995 May
*6 Am J Respir Crit Care Med. 2006;173(8):910
*7 Gómez-Outes A, et al: J Am Coll Cardiol. 2016; 68:2508-2521
*8 Kubo M, et al: Neurology. 2006; 66:1539-1544
*9 Senoo K, Suzuki S, Sagara K, et al. Distribution of first-detected atrial fibrillation patients without structural heart diseases in symptom classifications. Circ J 2012; 76: 1020-1023
執筆者
東京ハートリズムクリニック 院長
桑原 大志
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